2009年01月12日

モンテディオ山形 フルモデルチェンジ構想




 2008年1月10日(土)、山形県生涯学習センター「遊学館」で開催された『モンテディオ山形 フルモデルチェンジ構想 公開プレゼンテーション及び公開討論会』に出かけた。
 この会は、モンテディオ山形の「サポーター有志の自発的な集まり」である「モンテディオ山形フルモデルチェンジ構想を考える会」の主催。
 モンテディオ山形の運営母体である「社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会」の海保宣生理事長が、東北芸術工科大学デザイン工学部情報デザイン学科の中山ダイスケ教授に依頼し、同教授によって考えられた「フルモデルチェンジ構想」が、直接同教授から2時間以上にわたってプレゼンテーションされ、それを受けて40分ほど会場の参加者との討論が行われた。

 先にこのブログで述べたように、じぶんは、モンテディオ山形のファンであり、しばしばスタジアムに足を運ぶ観客であるが、「サポーター」という存在ではない。サッカー観戦を楽しみながら、心のどこかにわだかまりがあって、熱いファンになることを躊躇っている・・・という存在である。
 しかし、海保・中山両氏のフルモデルチェンジ構想について、しっかり聞いておきたいと想ったことと、名称やデザインの改変に反撥しているらしいサポーターたちがどんなことを言うのか確かめたいと思い、初市の交通渋滞と人混みを掻き分けるようにして、遊学館に出かけた。
 中山氏のプレゼンテーションは、“山形”のあり方と地方の中小都市における“プロサッカーチーム”のあり方を考えようとする者にとっては、とても有意義なものだった。
 この会の様子は、編集なしの音声ファイルとして「モンテディオ山形フルモデルチェンジ構想を考える会」のホームページに掲載されるということである。
 また、当日は、会場で、モンテディオ山形 FUN MAGAZINEの『Rush』の「緊急企画 フルモデルチェンジの[真相]に迫る。」が配布された。中身は同誌編集部による中山氏へのインタビューだが、これがまた、なかなかいい内容である。
これらから、じぶんなりに受け止めた「モンテディオ山形フルモデルチェンジ構想」(FMC構想)について、少し触れてみたい。

 さて、中山氏のプレゼンは「“山形”と“モンテディオ山形”」というパワーポイントによるタイトルの表示から始まった。言うまでもなく、フルモデルチェンジ構想の、もっとも重要な部分は、この冒頭の提題にあった。
 中山氏は、プレゼンに入るにあたって、まず自己紹介から始めた。それによると、氏はもともとFC東京のサポーターであり、世界中のサッカーを観戦して歩いている「サッカーおたく」なのだという。とくにヨーロッパなどの小さな街のサッカーをめぐる盛り上がりの雰囲気を、デザイナーとしては誰よりもよく知っていると自認していた。
 このプレゼンを聞いて、じぶんが重要だと思った点について、以下にまとめてみる。


【1】FMC構想は、「J2モンテディオ山形」の基盤確立のために構想されたものであったということ。

 海保理事長は、08年シーズンが始まる前の時点で、ようするにモンテのJ1昇格などまだ実現しそうにない段階で、クラブ支援の基盤を確立し拡大していくための戦略として、中山氏にデザインなどの変更の検討を依頼したようだ。これに対して、中山氏は、ユニフォーム・デザインなどのマイナーチェンジでは目的を達成できないとして、まず現状の“モンテありき”からではなく、“山形”とプロサッカーチームのあり方から考えようとしたことから、「FMC構想」という大改革を構想することになったという。

 じぶんのようなあまり熱心でないファンが言うのはおこがましいが、このような改革の必要性は、Jリーグで唯一の「社団法人」という運営主体の実態と、山形という人口・経済規模の小さな地方のクラブの経営的基盤からみて、誰に目にも歴然としていた。
 中山氏は、21世紀協会の批判はしていなかったが、言外に言いたいことは十分伝わった。
これもまた非常に僭越なことだが、ここでじぶんなりに述べてみれば、協会の理事会という経営陣のなかに、サッカーをこよなく愛し、このモンテというクラブをかけがえのないものだと思う人間がどれだけいるのかということだ。
 クラブの経営が危機に瀕しないうちに、県民の多数を支持基盤に組み込み、経済的基盤を強化するとともに、県(副理事長の一人は山形県副知事)など有力な理事に影響を与えられるよう、その世論を味方につけておかなければならないのである。
 このクラブをかけがえのないものと考える者なら、誰でもその大改革の必要性をひしひしと認識するだろう。これまでは、地元の人間に、それをやろうとする人材がいなかった(?)だけである。

 いま、じぶんの手元にある『サッカー批評』41号(08年12月・双葉社)をみると、そこには2007年度のJリーグ各クラブの事業決算に関する情報開示内容をまとめた一覧表が掲載されている。
 モンテの広告料や入場料その他の「営業収入」は539百万円で、少ない順で水戸の301百万円、愛媛の466百万円に次いで、Jリーグの31チーム中、下から3番目である。(参考まで、隣県のJ2仙台は1,539百万円、J1新潟は2,661百万円。人口規模が近いJ1甲府は1,655百万円。)また、チームの人件費は251百万円で、下から4番目。(同じく、J2仙台は732百万円、J1新潟は1,374百万円。J1甲府は741百万円。)
 山形の場合、入場料収入はたった89百万円であり、仙台の658百万円に比べてあまりに少なかった。
 なお、08年シーズンに全農山形(「はえぬき」)がユニフォームの胸のスポンサーから降りた他にも、いつ手を引くかタイミングを窺っているスポンサーがいたようである。(08年シーズンでは、07年まで背中だった「平田牧場」が胸に回ってくれたが、背中は空白の状態。)

 08年は、J1への昇格争いによって観客動員数が一試合平均で6,000人台に増えたということだが、J1昇格争いに絡みながらも昇格を逃したとき(2001年、2004年)は、有力選手の流出で翌年の成績が落ち、入場者数も減少して収入が減るという悪循環に見舞われていたようである。
 この悪循環の背景には、モンテが県民に広く認知されていないことがある・・・というのが、海保理事長と中山氏の基本認識であったようだ。これまでのJ2における状況を考えれば、この点はじぶんも同じ認識である。
 モンテのサポーターやそれに次ぐ熱心なファンがどれだけいるのか明らかでないから、じぶんがスタジアムで見てきた感覚から勝手にそれを予測してみる。
 昇格争いをしたことから観客動員数が増えた08年でも、自費で入場料を支払ってホームゲームにいく観客は9,000人程度か(うち、サポーターは4,000人、それに次ぐやや熱心なファンが2,000人、その他のファンが3,000人。この他に、仙台戦や昇格争いだけ観に行くという邪道ファンが3,000人?)という感じである。(以上は、一試合の入場者数ではなく、実人数としての“感じ”である。)
 熱心な5〜6千人のサポーターやファンと、これ以外の県民多数のモンテに対する意識は、中山氏も指摘していたが、ずいぶんと乖離していると思われる。この乖離をどうやって埋めるか・・・FMC構想のもっとも中心的な問題意識は、至当にも、ここにあった。


【2】このクラブを“山形”の顔とすることは、このクラブのためであるというだけでなく、“山形”のためであるということ。逆に言うと、“山形のため”に存在するサッカー・クラブとなることを通じてでなければ、このクラブの基盤は確立できないということ。

 中山氏は、「山形のプロサッカーチームは、山形の顔であり、YAMAGATAを世界へ連れて行ってくれる船である」と述べていた。
 このことは、ちょっと気の利いた人間なら誰でも言いそうなことのように見えるが、山形県のいわば“地域根性”をよく知っている人間なら、この言葉の裏側に張り付いている、山形県という地域共同体の統一性の希薄さをなんとかしたいという想いを受け止めることができるだろう。
 中山氏も言っていたが、山形県は、自然、文化、地域社会、農産品、工業製品と、じつに素晴らしい要素や財産をいくつももっている地域である。だが、その要素や財産は、この県の成り立ちの歴史から、村山、庄内、置賜、最上という4つの地方に個々に所属するものとしてバラバラに認識されており、“山形県”としてのアイデンティティは、おそらく山形県に生まれた人は気づきにくいと思うが、じつはかなり希薄である。
 中山氏は、デザイナーとしての視点から、FMC構想を通じて、この山形県にインテグレートされたアイデンティティを持つ可能性を開示しようとしている。

 中山氏は、他のチームと明らかに異なったチームカラーとユニフォームのデザイン(白と黒の三角を組み合わせた鱗型→▽▲▽)を提案している。
 言葉ではわかりにくいが、要するにクロアチアのナショナルチームの紅白のチェック模様を三角形の白黒に置き換えるみたいなデザインであった。
 世界のクラブチーム及びJリーグやJFLのユニフォームを多数提示し、差別化を図るうえでなぜこのデザインになるのかを説明する中山氏の話には、それなりに説得力があった。
 じぶんなりに言い換えれば、ユニフォームは、クロアチアの模様と新撰組の羽織の模様を合わせた甲冑を思わせるような印象のデザインであり、フラッグや応援グッズのデザインで構成されるサポーターの応援席は、戦国武将の軍団に見える。
 これは、メディアに取り上げられたり、アウェイ戦で全国を回ることによって人々の視線に晒される山形のプロサッカーチームの衣装(ユニフォームやフラッグ)を強烈に印象付け、それを“山形”の意匠(ブランド・デザイン)だと意識させることで、“山形”というインテグレートされたブランド・イメージを形成しようとする戦略なのである。
 中山氏は、このデザインのパターンをオープンソース化し、県産品のグッズや包装やポスターなどさまざまな媒体に広範に活用してもらうことで、個別の商品や観光イメージを統一したブランド・イメージとして打ち出すべきだと提案している。このことで、この4つの地方や産物や文化などの各要素が、初めて効果的に宣伝され、また各要素が山形ブランドを高めるように作用する相乗効果が期待できるとする。

 また、白・黒・グレーを貴重とした鱗型のユニフォーム・デザインは、じつは小規模なスポンサーしか獲得できない地方チームのスポンサー獲得戦術としても構想されたものだった。
 山形のような地方では大口のスポンサーを獲得することは困難であり、小口のスポンサーをいかにたくさん確保し、それらのロゴを如何に効果的(ユニフォームのデザインを壊さず、しかもスポンサーの納得を得る形で)配置するかが課題となる。これは、自動車レースのF1のワッペンのようにロゴをいっぱいくっ付けながら、それでいてF1のような不統一を回避するという試みである。
 この鱗型のデザインだと、小さな企業や商品のロゴをユニフォームの各部分に配置いやすいということと、モノクロを基調としていることで、スポンサーに対し、ロゴもモノクロで記載するように交渉し、全体の“山形”統一ブランドのデザインとの調和を図る狙いがあった。
 このあたりのアイデアは、さすがにプロのデザイナーのものだなと思わせられた。

 これらのことは、県民意識の現状を考えれば、高々5〜6千人の熱心なサポーターやファンと県民の意識の乖離を埋めようとしたら、クラブを“山形ブランド”の象徴にしなければ、県民各層を巻き込むことはできないだろうという認識から来ている。
 そして、クラブを“山形ブランド”の象徴とするには、すでに出来上がり、一部のサポーターから熱烈に支持され、それゆえに“一部の人たちのもの”になっている(とそれ以外の人たちから看做されている)現在の「モンテディオ山形」というイメージをご破算(中山氏はこういう言い方をしていないが)にするところから始めなければならないと考えるのは、ある意味で自然な発想ではあるだろう。


【3】現在の「モンテディオ山形」のイメージを再構築するためには、もちろん、その名称を変更することがいちばん効果的であるということ。

 さて、とにかくサポーターの反対が根強いのは、名称変更についてである。
 山形県民から広く関心と支持を得られるクラブとするために中山氏が着目したのは、「月山」であった。
 「月山」は、顔の形をした山形県の中心に位置し、4つの地方のどこからでも見える。そして深田久弥の『日本百名山』に採択されており、出羽三山としても有名である・・・などと、山形県の人間では、使い古した感じでとても言い出せない理屈を挙げて、まるで東京の広告代理店の企画マンみたいにその採用理由を説明した。
 「月山形」(「がっさんやまがた」と山の字を二度読む)という漢字のチーム名を聞いたとき、じぶんもだいぶ陳腐な感じがした。
 しかし、「Gassan Yamagata」はいい名前だと思う。とくに「ガッサン」という響きはとてもいい。中山氏も、じつは前記のような理屈よりは、「月山」という“月”の山のイメージと、「ガッサン」という音に惹かれているのではないか。
 そういえば、山形では、これまで「月山」という名前をつけて失敗したモノはないという実しやかな噂がある・・・こう考えてくると、中山氏が提案する「月山形」も、たしかに「これなんて読むの?」と訊いて、読み方を教えられたら強烈に印象に残るわけで、これはこれでユニークな名称・ロゴではある。
 中山氏は、どうしても外来語を使いたいなら、月山の見える地域(実際には見えなくても見えると思う地域あるいは思いたい地域でいい)の人々が、こぞって支援するクラブだという意味で、「月山ユナイテッド山形」、「Gassan United」などの案も挙げていた。また、「東北山形」という案もあった。
 このバリアントでいけば、「山形ユナイテッド」でもいいし、「東北ユナイテッド山形」でもいいと思う。
 じぶんとしては、中山氏のFMC構想を基本的に支持するなら、全体が統一的に構想されている計画の中心部分をなるべく弄るべきではないという考え方に立って、名称についても「月山形」「Gassan Yamagata」を受け入れていいのではないかと思う。


【4】じぶんのもろもろの想い、そして雑感。

 プレゼンの後で行われた参加者との討論では、「サポーター」を自認する人たちから、反対する発言が続いた。ただし、音声ファイルを聴いて判断してほしいが、新聞やテレビで報道されたのとは少し異なり、現場の雰囲気は必ずしも反対派が大多数という感じではなかった。
 このように想い切った提案をしてくれ、また激しい批判や非難を浴びるかもしれないこのようなサポーターが主催する場へ出てきてくれた中山氏の姿勢やその構想に対して、これを評価する発言もあったし、その発言を支持し、支援する拍手も起こった。
 なお、討論の時間は40分程度で、かなり不足だったと思う。もう少し時間があれば、つまり異議を唱えるサポーターの強い口調の意見が一通り出されたあとならば、賛成意見も聞けたような気がする。

 ここで行われた反対の発言を聞いて感じたことは、やはりサポーターの想いの強さであり、これまでのサポートの過程に自己の存在をかけてきているという矜持であった。
 じぶんも熱心なサポーターだとしたら、誰かが言っているように「みんなが反対していることを」「密室で決めようとしている」・・・そしてプロジェクトチームを募集するといっているが、「実はもう出来レースなのではないか」という想いに駆られるかもしれないと思った。
 海保さんという、鹿島で業績を上げたとかなんとか言われているが、山形に関係ないやつが来てトップになって、地元の大学の教授とはいえ東京から週に一度通ってくる関西訛りのデザイナーを連れてきて、広告代理店みたいな発想でこれまでのじぶんたちのアイデンティティをぶっ壊そうとしている・・・じぶんがモンテに入れ込んでいるサポーターだったとしたら、こんなふうに受け止めたかもしれない。

 しかし、そのうえでもあえて言えば、会場にきていたサポーターには、現状への危機感とその打開への展望をもっているという雰囲気が感じられなかった。もちろん、モンテの支持基盤をどう拡大するのかの対案も、示されはしなかった。
 報道では、理事会などにも、J1昇格を決めた今、FMCなんてやっている場合ではないという意見もあると伝えられた。しかし、「J1昇格」は、大きなチャンスであると同時に、じつは、ちょっとでも間違えば、「J2降格」を契機にクラブの支持基盤の脆弱性が露呈する大きな危機でもあるだろう。その意味では、反対のための反対をしている場合でも、ずるずると引き延ばしている場合でもない。


 熱心なファンでもないじぶんが、サポーターについてあれこれ言うことは控えよう。
 しかし、最後にひとつだけ。
 たとえば、モンテのサポーターたちは「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の現状をどのように視るだろうか。

 この映画祭は、「山形のプロサッカーチームがYamagataを世界に連れて行く」とかなんとか言うよりも、遥かに世界的に有名なはずなのに、そしてもう10回も開催しているというのに、何故にいまひとつ地元の市民や県民の関心が低いのか。
 情熱的なスタッフがいて、映画関係者や映画ファンのみならず広範な文化関係者や報道関係者からもこぞって高く評価されていて、しかも国内的にも国際的にも山形の名声を高からしめているのに、なぜ地元の一般住民の評価と支援を、いまひとつ拡大できていないのか。
 今年、11回目の映画祭が開催されるが、運営が民間組織に手渡されて2回目の開催である。・・・そろそろ地元の山形市民の支持基盤を固めないと、山形市から多額の補助を得続けていくことはできないだろう。・・・こちらも正念場に差し掛かっている。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭の地元サポーターを増やすには、映画ファンを増やすという戦術だけではダメなのだ。それと同様に、サッカーチームの支援を広げるためには、そのサッカーチームのファンやサッカーという競技のファンを増やすという発想だけではダメなのである。


 さて、このように、すべての核心は、“山形”にある。
                                                                                                                                                                


 


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Posted by 高 啓(こうひらく) at 22:10│Comments(0)スポーツ
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