2023年07月17日
『非出世系県庁マンのブルース』の「はじめに」

高啓著『非出世系県庁マンのブルース』(高安書房)が各ネット書店(Amazon含む)で購入できるようになったことに伴い、本書の前書きにあたる「はじめに」をここに掲載します。
はじめに
凡人の回顧録、とりわけ仕事に関する回顧録というのは、ほとんど自慢か自虐になってしまう。だから他人は読む気がしないのだと、どこかで聴いた記憶がある。この書もまた、この轍から自由になれていないことだろう。
山形県庁の日陰の一職員に過ぎなかった者の回顧録を、誰が進んで手に取ってくれるものだろうか、人を傷つけるかもしれないものを書き残す意義がほんとうにあるか、こんなものは所詮出世できなかった奴の恨み節ではないか・・・などと、幾度も幾度も刊行を逡巡した。
しかし、このネガティヴな考えに対して、無理やりポジティヴな考えを対置してみる。
ひとつは、山形県(または山形県政)における知られざるささやかな歴史を、幾許かは興味をもってもらえる形で、つまりは斜角から記録しておくこと。
もうひとつは、県職員もしくは自治体職員あるいは「公務員」という存在に対する固定概念に、いささかなりとも放蕩と遊撃の作風(ベタな言葉で言うと〝ロマン〟ということになる)が差し込む風穴を開けておくということ。
これらを、県組織、関係者及び著者自身の清濁を併せて描く輩は、そこここに何人もいるわけではないだろうという想いである。
そもそも、これまで六冊も詩集を上梓してきた自意識過剰のじぶんである。この書によって、たとえ傲岸ときには醜悪でもあるわが身を晒すことになろうとも、じぶんが生きてきた証をこの世界に刻み付けておきたいという欲求に抗うことはできない。
本書の各章は、時系列で並んでいるわけではない。未知の読者が手にとってくれたとき、少しは関心をもって読み進んでもらえるように、各章を独立した形で記述し、それを変化に富む順番で並べてみた。
県政の裏面史に関心がある方は、「第Ⅰ章 秘密指令! 県費三五〇億円を防衛せよ。」、「第Ⅲ章 米沢の能舞台はなぜ空気浮上するのか」、「第Ⅳ章 最後の紅花商人」を先にお読みいただきたい。行政事情を云々されるのに退屈される方は、第Ⅳ章から取りかかっていただけると読み進み易いかと思う。
また、社会福祉に関心のある方は、「第Ⅱ章 ケースワーカーはキツネでござる」、「第Ⅴ章 介護事業所の勧誘ローラー作戦は許容さるべきか」からお読みいただきたい。
さらに、組織の論理と自分の倫理や矜持のはざまで悩んでいる方には、「第Ⅲ章」と「第Ⅴ章」を紐解いていただきたい。
そして、もし筆者の来し方に関心をもっていただけたなら、「第Ⅵ章 要領の悪い歩行について―山形県に採用されるまで―」に眼を通してくだされ。
あっは。こんなことを言いながらも、書かれているのは自家撞着に満ちた事柄でもある。
第Ⅰ章では国の検査をいかに誤魔化すかに必死になりながら、第Ⅴ章では社会福祉法人の不正を見つけ出すために腐心している。
さらに、職業倫理をめぐる苦悩を語る一方で、「官官接待」や「食糧費問題」など(これらは厳しく指弾され二〇数年も前にほとんど解消されているが)県民からみればとんでもないことをしながら生きてきた軌跡を、ぬけぬけと描いているのである。
こういう文章をなんと名づけたらいいのか、ロバート・ジョンソンには誠に申し訳ないが、じぶんはそれを「ブルース」というほかなかった。
なお、「ささやかな歴史的事実」が書かれていると言ったが、記憶というものは、つねに/すでに、自己中心的に変成されているものだ。じぶんに都合よく記憶しているし、他人に知られたくないことはもちろん書かれていない。数字をはじめとして単純な錯誤記憶も少なからず存在することだろう。この回顧録はそういういい加減なものだということを、事前にご了承いただきたい。
また、相談支援の業界では、個別ケースを不特定多数に紹介する際にはプライバシー保護のため事実内容を一部書き換えることがルールになっているが、ここでもそれに従っているものとして第Ⅱ章をお読みいただきたい。
ネット書店以外でのご注文については「高安書房」のサイトの「『非出世系県庁マンのブルース』のご注文はこちらへ」をご覧ください。
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