2021年04月06日

第20回山形県詩人会賞

【山形県詩人会情報】






 2021年度・第20回山形県詩人会賞は
 阿部宏慈詩集『柄沼、その他の詩』(2020年3月5日刊/書肆山田)
 に決定しました。

 授賞式は例年山形県詩人会の総会に合わせて実施してきましたが、コロナウイルス感染状況に鑑み、昨年度に引き続き今年度も総会は中止とし、少人数での授賞式のみ、4月24日(土)15時から、山形市の「遊学館」3階第二研修室で執り行う予定です。


【選考経過】
 2020年1月から12月まで事務局によって確認された県内在住者による詩集等は、刊行順に、阿部宏慈詩集『柄沼、その他の詩』、万里小路譲評論『哀歓茫々の詩人・菊地隆三への旅』、鈴木康之遺稿詩集『越冬』、万里小路譲詩論集『詩というテキストⅢ 言の葉の彼方へ』、小林功詩集『月山の風』、高啓詩集『二十歳できみと出会ったら』、高橋英司詩集『野道にて』の7作品。これらをもとに、3月27日、第20回山形県詩人会賞(山形県詩人会主催・会長高橋英司)の選考会が開かれた。
 万里小路譲評論及び詩論集、高啓詩集は、著者が本賞の過去の受賞者であること、また鈴木康之遺稿詩集は作者が物故者であることから、従来の申し合わせにより、選考対象外とした。また、高橋英司詩集については著者から選考からの辞退の申し出があり、選考対象外とした。いずれも、それぞれ独自の方法・スタイルで詩世界を切り拓き、深く詩的真実を追究した成果であり、詩という芸術の分野で、本県における文学的達成の豊穣さを示した充実の年となった。
 候補作として検討した2作品のうち、小林功詩集『月山の風』(コールサック社)は、月山を仰ぎ鳥海山を眺望する風景の中を歩き、自然と交感しつつ、心象風景をくっきりと切り取り、簡明な言葉で詩作品に鮮やかに仕立てたものである。画家でもある著者にとっては、詩も絵画もひとつの大きなアートであり、作者の全人格を傾けた達成として人々に喜びを与える詩集であると評価された。
 一方、阿部宏慈詩集『柄沼、その他の詩』は、「柄沼」「夢の設営」「鳥の歌/記憶の歌から」「Lamentoのための素描」の4パートからなり、それぞれが一冊の詩集ともいえる重厚な詩集である。柄沼(つかぬま)という沼地へ渡り入り、その実在と架空の境界の記憶と意識をたどり、著者の幼年からの時間、とりわけ青年期の彷徨を現在のものとして反復する。その「時間・記憶・意識」の卓越した記述。夢の中でしか見出せない時間の表現。鳥の名の頻出する風景の詳細な展開。東日本大震災被災地の、著者に親しい地名の一つひとつを一行書きにした連打と連呼。劇中劇として能を演ずる語り。それらの優れた特色によりこの詩集は、東日本大震災前―震災後の記憶の変容をも表出する新たな達成の詩集であることから、阿部宏慈詩集『柄沼、その他の詩』を本年度の山形県詩人会賞に決定した。 (文責 担当理事 相蘇清太郎)

【受賞者略歴】
 阿部宏慈(あべ・こうじ):1955年仙台市生まれ、山形市在住。東北大学文学部卒業。フランス政府給費留学生としてパリ第3大学留学。山形大学でフランス文学・思想、映像学などを講じた。山形大学副学長を退任後、現在、山形県立米沢栄養大学学長・同米沢女子短期大学学長。故・渋沢孝輔主宰の詩とエッセイの同人誌『Thyrse』(ティルス)に発表した作品が、受賞詩集の作品の基となっているとのこと。著書:『プルースト 距離の詩学』(平凡社)、訳書:ミシェル・セール『カルパッチョ 美学的考察』(法政大学出版局)、ジャック・デリダ『絵画における真理』(共訳、法政大学出版局)など。
  

Posted by 高 啓(こうひらく) at 18:38Comments(0)山形県詩人会関係