2007年11月11日

さらば知歯・・・




 「知歯」はオヤシラズのこと。オヤシラズは親不知とも書く。
 親を知らない歯が知の歯であるというのは、言い得て妙である。

 この知歯が生え始めたのに気づいたのは高校3年くらいからだった。
 高校時代はそれほど気にならなかったが、大学生になって一人暮らしをはじめると、奥歯のさらに奥の歯肉がひどく腫れて痛み出すようになった。
 今から考えれば、これは出かかった知歯と歯肉の間からばい菌が入って炎症を起こしたからだとわかるが、当時はバカなことにこれを知歯が肉を食い破って生えてくるために起こる必然的な痛みや腫れだと思い込んで、歯医者にも行かずひたすら耐えていた。
 耐えるどころか、歯が出やすいようにと歯肉の隙間に爪を突っ込んで、肉をぎぃーっと押し広げたりもしていた。これはまさに“ひとりサド・マゾ”である。(苦笑)

 知歯は4本だ。その4本が順番に(といっても順不同だが・・・)痛み出した。
 しかも1本について、歯が出てくる過程で4〜5回の痛みの時期を経験した。
 その一回の痛みが、ひどいときは1週間から10日ほども続き、その間は顎が腫れて口もろくに開けない状態で、数日間固形物を摂れず、ほとんど牛乳だけの食事で過ごしたことも何度かあった。

 それにしても、ずいぶん苦しい想いをしたのに、なぜ歯医者に行かなかったのだろうと今になって思う。
 歯医者に行けば抜かれてしまうと思い込んでいたフシもあるが、たぶん、これに耐えることが大人になるために避けられない道だとか、<知>というものはこうして肉を食い破って激しい痛みを伴ってやってくるものだ、などと漠然と思っていたような気もする。




 こうして20代半ばには上下で4本が完全に出揃い、うち1本はすこし傾いて生えたが、3本はしっかりした歯になって、四半世紀も役に立ってくれた。
 しかし、この2〜3年で4本に次々に腫れと痛みが襲い、触るとぐらつく状態になった。

 歯医者によると、オヤシラズは周りの支えている肉が弱く隙間が開き易い。そこに歯周病菌が入り、歯が溶けてますます隙間が広がる。さらにそこにばい菌が入り、体調の変動で抵抗力が弱まると炎症を起こすのだという。
 ぐらついている以上、もはやあきらめなさい・・・医者がそういうので、しかたなく、痛み出すたびに1本ずつ抜いてきたのである。

 けれど、あれだけ苦しんで生えさせた<知歯>だ。なにか掛け替えのないものを失うような気がして、それでも最後の1本は、ほんとに痛くなるまで待ってください・・そう言って、この一年あまり誤魔化し誤魔化ししてきていた。

 さて、だが、今回は最後の1本がまた痛みだしたとはいえ、その痛みが治まりだしたある日、なぜか突然思い立って歯医者に抜きに行った。

 これが、“さらば青春”というやつである。(苦笑)

                                                                           


  

Posted by 高 啓(こうひらく) at 11:26Comments(0)徒然に