2013年09月04日

映画「スター・トレック-イントゥ・ダークネス-」感想



 


 2013年9月、山形フォーラムで、J.J.エイブラムス監督の「スター・トレック-イントゥ・ダークネス-」を観た。その感想を記す。いわゆる「ネタバレ」の部分を含むので、以下を読む場合は了承のうえで。

 「スター・トレック」といえば、じぶんの場合は小学生時代に観たテレビ・シリーズの印象が強い。いわゆる「SFもの」「宇宙もの」のなかで、このテレビ・シリーズは極めて異色の存在だった。
 簡単に言ってしまうと、娯楽作品ではない。小学生にとっては、面白い番組というよりどちらかというと退屈してしまうドラマだったような気がする。
 アクション・シーンが少ない会話中心の展開で、宇宙船の攻防などSFものに欠かせないシーンも印象に残らない程度。むしろ心理劇とか人間ドラマとか言った方がいいような内容だったような記憶である。
 たとえば、フロイトの言う<イド>が眼に視えない怪物(凶暴な物理的力)になって暴れまわるなんて話もあったと思うが、これは小学生のじぶんにはなかなか腑に落ちず、あれこれ考え込んでしまった。もっとも、<イド>ということばをここで憶えたりして、子どもから視ると“大人のドラマ”という感じがしていたものである。

 映画版「スター・トレック」については、過去の作品を劇場で2、3作品観た記憶はあるのだが、ストーリーをあまり覚えていない。宇宙活劇としても大人の心理ドラマとしても中途半端だったのかもしれない。(ただし、本作品よりは幾分か“スター・トレックらしい”作品だった。興行的に予想ほどうまく行かなかったのだろうか。)
 それでもあのエンタープライズ号の容姿とその背景のテーマ音楽に憧れて劇場に足を運んでしまうのは、子どものころに受けた刷り込みの影響だというのは間違いない。要するに、「惑星ソラリス」よりは薄いが、他の宇宙ものより知的で、なんとなく大人のドラマというイメージがあり、ついついあの特異な世界の再現を期待してしまうのである。

 さて、本作品は、以上のようなじぶんの期待をまったく裏切ってくれるものだった。
 簡単に言ってしまうと、心理劇をかなぐり捨てて、“スパイダーマン”や“バッドマン”に出てくるような超人が冒険活劇を展開する「ハリウッド映画」の典型的な作品になってしまっている。
 冒頭の未開人に追跡されるシーンは、活劇の導入部としては秀逸だが、よく言って「スター・ウォーズ」、悪く言うと「インディ・ジョーンズ」を連想させる。
 また、こういう映画の見方はしたくないのだが、指摘せずにいられないので言っておくと、クライマックスのシーンで、主人公のカーク船長は「USSエンタープライズ号」とそのクルーを救うために、同号の「コア」と呼ばれる動力装置の修理に向かって命を落とすのだが、その後、敵役で超人として描かれている「カーン」の血液を輸血されて蘇えるという筋書きには、その無神経ぶりに唖然としてしまった。
 「コア」はまるで原子炉の炉心のように描かれており、カークはそこで高線量の放射線を浴び、急性放射線障害で死んでしまうのだが、それが輸血一本で簡単に生き返り正常にもどってしまう。
 おっと、地球の連合艦隊に復讐を誓う元艦船司令官のジョン・ハリソン(=カーン)は、かつて遺伝子操作で不滅の人間兵器として生み出されたという設定だし、導入部では病気で瀕死の子どもをその血液の輸血によって回復させるシーンが挿入されているから、「死んだ人間を超人からの輸血で読みがえらせることができる」という設定自体については何も言わない。
問題は、高線量の被爆によってその場で致死した人間が輸血で蘇えるという筋書きだ。「フクシマ」以降も、ハリウッドでは、こんな能天気で無神経な設定が企画会議を通るのか・・・と、頭を抱えてしまった。

 もっとも、この作品をSF活劇だと看做せば、そこそこいい出来だと言うこともできる。
 何分かに一度アクション・シーンを挿入するというお約束も守られていて退屈しない。また、音楽が最初から最後までストーリー展開に対応してしっかり構成されていて、この音楽の完成度が作品の質をずいぶん救っている。 
 だがやはり、刷り込みを受けた人間としては、「スター・トレック」らしい“解らなさ”、つまりインテリジェンスの匂いが感じられなくなったのは、少し寂しいといわなければならない。(了)


                      


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Posted by 高 啓(こうひらく) at 00:43│Comments(0)映画について
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