2013年12月26日

シンポ「新生“モンテディオ山形”と地域づくり」に触れつつ

シンポ「新生“モンテディオ山形”と地域づくり」に触れつつ


 2013年12月21日、山形市の山形国際ホテルで開催された「大学コンソーシアムやまがた」主催(山形県と公益財団法人山形県スポーツ振興21世紀財団が共催)のシンポジウム「新生“モンテディオ山形”と地域づくり」に出かけた。その感想を記す。

 まず、全体が分かるように次第から。
 
 主催者挨拶:大学コンソーシアムやまがた会長・山形大学学長・結城章氏。
 来賓挨拶:山形県企画振興部長・廣瀬渉氏。
  (ここに山大チアダンスサークルの演技が挟まれて、)
 基調講演1:「新生“モンテディオ山形”を地域活性化の起爆剤に」株式会社モンテディオ山形社長・高橋節氏。
 基調講演2:「新生“モンテディオ山形”が地域にもたらす効果」山形大学人文学部教授・下平裕之氏。

 その後、「モンテディオ山形を軸とした地域づくり」というテーマでパネルディスカッションが行われ、山形大学人文学部・立松潔氏を司会として、東北文教大学短期大学部准教授・土居洋平氏、株式会社フィディア総合研究所主事研究員齋藤信也氏、山形県サッカー協会常務理事/Jリーグ・マッチコミッショナー・桂木聖彦氏、株式会社リクルートライフスタイル・じゃらんリサーチセンター研究員・青木理恵氏、東北文教大学短期大学部総合文化学部2年・武田安加氏がパネラーとして発言した。
 13:30から16:25まで、実質約150分という時間にこれだけを詰め込んで・・・と、予め想像がついたが、やはり話の内容は上っ面で、しかも新鮮味のないものであった。

 とはいいつつも、一応内容に触れていく。
 高橋モンテ社社長の講演は、まず山形県の人口の減少(平成32年度には県人口が105万人を切り、65歳以上が3分の1を超える予測)について触れ、モンテの年度別運営規模(収益)の推移グラフと2012年のJ2各クラブの営業費用の比較グラフを示して、モンテの財政規模の小ささを説明し、財政力をつけてJ1に昇格するため「株式会社化」を図ったとする内容だった。
しかし、これらの資料を用いた経営基盤強化の必要性の話は、いままでモンテの中井川GMらが機会あるたびに県内各地で縷々講演してきたもので、新鮮味に欠けるうえ、肝心の「株式会社化」によってどのように収益を上げ、どのようにしてチームを強化してJ1に昇格するかというフロントとしての戦略・戦術については語られることがなかった。
 過日、モンテディオ株式会社が県総合運動公園の指定管理者に選定され、これで会社の最低限の経営基盤はできたということだろうが、その先の一手が見えていない。つまり、“何をするための株式会社化なのか”は依然として示されていない。

 山形大学の下平教授の講演は、モンテによる経済波及効果について株式会社フィディア総合研究所の試算を紹介するとともに、Jリーグのクラブが「ソーシャル・キャピタル」(SC)の形成に貢献するという研究成果(ヴァンフォーレ甲府やジェフユナイテッド市原・千葉についての先行研究)を紹介したものだった。
 モンテの経済波及効果については、「モンテに関するさまざまな消費額」=最終需要は17億2,900万円と算定され、「これらの消費が県内経済に生み出す生産・支出額」=経済波及効果は19億4,700万円となり、186人の雇用を生み、税収を3,700万円増加させているという話だった。
 シンポの最後に行われた参加者との質疑応答で、下平教授が引用した経済波及効果に「ダブり計算があるのではないか」と質問され、フィディア総合研究所の齋藤氏が「経済波及効果の計算はそういうものだと思ってください」と答えたが、じぶんはこのやり取りに思わず噴き出しそうになってしまった。
 たしかに「経済波及効果」の算定などというものはその程度のものだろう。それは、もっぱら主催者側が自分の実施したイベントや事業を如何にも有益だったのだと主張するための言挙げであり、そもそも客観的に考察すべき立場の者が検証なしに取り上げるべき筋合いのものではない。
 しかし、もしじぶんなりに敢えて「総合波及効果36億7,600万円」という算定にケチをつけるとすれば、この種のイベントの経済効果に関する試算は押しなべてそうなのだが、いわば“代替性”を無視していることが根本的な問題ではあるだろう。
 つまり、「モンテのゲームがなければ観戦者は他に何も金を使わないのか?」ということである。日曜日に家族でモンテのゲームを観戦して消費支出する人間は、モンテのゲームがなければ海水浴に行くかもしれないし、街で外食するかもしれないし、子どもを連れてリナワールドに遊びに行くかもしれないし、はたまた芋煮会をして酒を飲み代行車まで利用するかもしれない。つまり、モンテのゲームに行くことによって支出する金銭と同じかそれ以上の支出を別のレジャー等に対して行うだろうという想像がつく。
 一方、SCの議論については、ある意味でまともに考える価値があると思う。甲府や市原・千葉の事例を持ち出すまでもなく、モンテは“Jリーグで唯一の財団法人”として、とりわけ県や市町村や町内会等が深く関わる組織として、Jリーグのなかでも最もSC的価値の創出を果たしてきたクラブのひとつだと思える。この文脈からモンテを直接対象として論じることこそが求められているのだ。
 なお、下平教授は最後の部分で、モンテのゲームの観戦者がスタジアムと自宅の「直行直帰」になっている割合が高い(2013シーズンの最終節・東京V戦観戦者アンケートによる)ので、地域と連携して途中で食事や買い物に立ち寄らせる取組みが必要であると指摘していた。経済効果という視点からみればこのことは重要だが、今はともすれば「新スタジアム問題」というナーバスなところを刺激してしまう論点だった。

 パネルディスカッションにおける発言で印象に残ったものを振り替えてみると・・・
 じゃらんリサーチセンターの青木氏はじつは雑誌「じゃらん」の編集者だということだったが、データに基づいて、①国内宿泊旅行者をみると年々若年層が減少、②若年層の人口減少をかなり上回って旅行実施者が減少、③Jリーグ観戦者においても40代以上が年々増加し、その平均は39歳。モンテ観戦者の平均年齢は2009年の34.7歳から2012年は41.3歳に。④観戦者の約37%がアウェイ観戦に行っている。・・・などの状況を報告し、20歳をJリーグに無料招待する企画などを実施して誘客に結び付けていると語った。
 また、フィディア総合研究所の齋藤氏は、シンクタンクの研究員として分析するにとどまらず、自ら活性化のコーディネーターとして具体的に活動している様子を語った。
 山形県サッカー協会常務理事の桂木氏の発言で印象に残ったのは、株式会社化で収益増を図り、その金でチームを強化してJ1昇格を目指すと言っているが、収益増には今までも取り組んできたわけであり、飛躍的な結果が出せるのか疑問に思っていると語った点。この点はじぶんも同感である。ただし、大株主となった「アビームコンサルティング株式会社」からの役員らが、大口スポンサーの獲得に成功した場合は別である。
 シンポジウムは、各パネラーが個別の報告を行った後、「新スタジアム問題」については触れないよう配慮しつつ、「若者や学生をホーム・ゲームに動員するにはどうしたらいいか」という点について各自が一言ずつ発言したところで残り時間が10分くらいになり、そこでやっと会場の参加者に発言が許された。
 前述の経済波及効果に関する質問者に次いで、天童市の「50年間サッカーを観戦してきた」というモンテ・サポーターが発言し、モンテ創設以来15年間、地元地区で地区民に呼びかけて観客を動員してきたことを受け止めて欲しいと、言外に「新スタジアム問題」への意見を匂わせた話をしたところ、続いて山形市の「北部サポーターズ・クラブ」を立ち上げたという参加者が、「サポーター同士で話すのは“モンテが勝った日はどうする?”ということ。勝っても祝杯を上げる場所がないので、熱が覚めて帰路に着くだけ。山形駅近くなどにスタジアムがあれば経済効果は大きい。」と発言して、やはり・・・という様相になりかけた。
 時間切れで論議はそれだけで打ち切りになったが、どうしてもサポーターらの関心の中心は「新スタジアム問題」に向いてしまうようだった。
 
 さて、ここで「モンテと地域づくり」というテーマに関連させて大雑把にじぶんの考えを述べれば、
 ① 県内からの集客による経済効果(の純増)はあまり期待できない。
 ② 経済効果が期待できるのは県外からのアウェイ・サポーターだが、これもJ1に昇格しないとそれほど期待できない。つまり、仙台・新潟というダービーマッチの相手やかつての浦和のように関東のビッグ・クラブがJ2に落ちて来ない限り、アウェイ・サポの数は知れている。
 ③ したがって、モンテの存在意義は経済効果以外の面で考えられるべきである。
 ④ つまり、それは山形県民や山形県に所縁のある者にとっての精神的・心理的な価値の面で考えられるべきである。
 ⑤ モンテの価値は、山形県民を心理的に統合し“われわれの地域・山形県”という共通意識を醸成する象徴的機能にある。(県内4つの地域ブロックの意識が強いため、山形県民には“われわれの地域・山形県”という意識が薄いことは以前にこのブログで述べた。)
 ⑥ 心理的統合の象徴たるべきモンテが、「新スタジアム問題」で地域間の相克を生み出す要因になるのは本末転倒である。ゆえに、Jリーグの要件として「屋根つきスタジアム」の建設が不可避となった場合は、現スタジアムの改修または総合運動公園内への新設で対応すべきである。
  ・・・というのが、現時点のじぶんの考え方ということになる。

 ついでに、今後のモンテの進むべき方向についても述べておきたい。

(1)J1昇格を目指すことは当然だが、よほど気風のいい大スポンサーが現れないかぎりクラブの経営規模を、たとえば現在の2倍以上(仙台並み)にして、J1に長く留まれるようなクラブにすることはかなり難しいだろう。少子高齢化・過疎化の進行によって、山形県の経済規模が縮小していくことも想定しなければならない。新たなスポンサーを必死に開拓したとしても、J2ではこれまでのスポンサーによる支援規模を維持することは次第に難しくなっていくと見ておく必要もある。
 したがって、選手らが積極的に地域活動に関わることで「J2モンテ」のサポーターとファンと支持者を増やし、また各人の支持・支援の度合いをランクアップしてもらえるよう、地道な取組みを重ねていくことが何より重要である。
(2)Jリーグは、選手や指導陣の移籍が激しく、クラブの財政力が戦力を決める割合がとても大きい。
財政力でかなわないなら、別の要素で人材を獲得して戦力アップを図ることに力を注ぐべきだ。それはジュニアからユースにおける選手の育成であり、そのための指導者への投資であるだろう。
 もちろん、ユースの育成については他のクラブでも力を入れている。しかし、出来上がった選手を「補強」するのにくらべて、この部分になら山形にも競争力が潜在しているはずである。
 とくに、地元出身の選手をトップチームに採用し、未熟でも公式戦でプレーさせて中期的に育てていくことが重要である。トップチームの4割くらいを“地元枠”にするくらいの決断をしてもいいと思う。
(3)上記(2)の明確な方針化こそが、(1)の地道な取組みを支える根拠となる。つまり、モンテディオ山形というクラブを「サポーター」や「サッカー・ファン」のものからより広い層のもの、つまり“県民のもの”として根付かせる戦略を講じていくことが重要だ。この意識が広がっていくとき、今も存在している「スタジアムにはなかなか行けないが、ゴール裏のシーズン・シート(25,000円)くらいは購入するよ」という層が増えていくはずである。なお、株式会社化で2015シーズンからチケットを値上げするやの報道があるが、これをやると逆方向にいってしまう可能性もある。
(4)もっとも重要な観点は、「つねにJ1を目指すが、必ずしもJ1に拘らない」という姿勢だと思う。
財政力の弱いプロビンチアであることをしっかりと認識し、しかしそれでも地道な努力をしていれば、小林伸二監督の下でJ1昇格を決めた2008年シーズンのように運が巡ってきて、“はまった指導者”と“はまった選手”が揃う。いわば、「地道な努力が幸運と巡り合ったときJ1に昇格するのだ」くらいに気長に構え、そしてJ1とJ2を行き来する「エレベータ」クラブでいいのだと覚悟を決めること。いや、“エレベータ・クラブだからこそ、われわれのクラブとして支援する意味がある”ことに気づくこと。これがモンテ及びそのサポーターやファンの生きる道だという気がする。


 さて話は変わるが、モンテには来年から新たなライバルが出現するかもしれない。
 2014年から「ナショナル・バスケットボール・デベロップメント・リーグ」(NBDL)に参入する「パスラボ山形ワイヴァンズ」の存在である。このクラブがどんな姿になるか分からないし、スタートしても軌道に乗れるかどうか不分明でもあるが、もし運営が軌道に乗りトップリーグであるNBLに手が届くところにいけば、小学生、高校生、大学生、社会人などの各層で比較的バスケットボールのレベルが高く、いわばバスケットボール選手供給の素地がある山形県内で注目を集め、とくに村山地域では地元選手が活躍すればプロスポーツとしてモンテに匹敵する人気を得る可能性がある。
 NBLには、外人選手枠(2名まで)帰化選手枠(1名まで)の規制があるほか、「サラリーキャップ制」があり、所属選手15名の年俸総額が1億5千万円までと決められているとのことである。パスラボ山形がどれだけ運営費を確保できるか不明だが、「サラリーキャップ制」は山形に大きな可能性を感じさせるルールではあるだろう。(了)
                                                                                                                               




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Posted by 高 啓(こうひらく) at 02:02│Comments(0)サッカー&モンテディオ山形
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