2015年11月26日

「木村迪夫の詩を語るつどい」報告

「木村迪夫の詩を語るつどい」報告



 山形県詩人会は、山形県立図書館との共催で、2015年10月11日、山形市緑町の遊学館・第一研修室において『木村迪夫の詩を語るつどい』を開催した。
 これは、「山形国際ドキュメンタリー映画祭2015」において原村政樹監督の長編ドキュメンタリー映画「無音の叫び声~農民詩人・木村迪夫の牧野村物語~」が上映されるのに連動して企画されたもの。(参加者は40名余りだった。)
 
 はじめに木村迪夫が自作詩「村への道」と「まぎの村へ帰ろう」を朗読し、これに続いて議論に入った。(以下、敬称略。)
 議論の呼び水となるよう、「話題提供」として、まずは詩人・近江正人から「木村迪夫の詩の魅力について」と題した20分程度の報告、続いて詩人・高橋英司から「現代詩史における木村迪夫の位相について」と題した25分程度の報告を受けた。
 近江は、木村の作品世界の特徴を〝身体性を持つ具体的な詩表現〟とし、方言の会話体の直接使用、農の実経験を通過した重くリアルな身体性の言語と生活描写、七五調の独特のリズム、ドキュメンタリー性などに注目する。
 そして、その魅力と可能性を「詩による視覚的・演劇的(映画的)な空間の創生」と「はにかみと農的・生命的なエロスからの希望の再生」に見るとした。
 一方、高橋は、詩人・木村迪夫が「農民詩人」という冠付きで語られることについて、蔑みやその逆の「特権的なラベル」付けがなされていると異議を申し立てつつ、その思想性を生活現実に即した「身体性」、すなわちリアルな言葉・具体的なイメージという観点から語った。
 また、吉野弘の詩「夕焼け」を引き合いに出しながら、吉野の詩には嘘や倫理的に疑問を感じる部分があるが、木村の詩には「嘘がない、飾りがない、率直だ」、「生活信条や箴言、人生訓めいた言葉もない」と述べ、その詩業は現代詩史に脈々と流れる「地下水」のようであると述べた。

 引き続いて、高啓が進行役となって、木村、近江、高橋によるパネルディスカッションが行われた。
 初めに、高が「『農民詩人』と呼ばれることをどう思うか?」と木村に質問。
 木村は、「『農民詩人』と呼ばれるのはいやだ。」と、きっぱり言い切った。

 近江が、木村詩の演劇性・映画性を重視して詩集『いろはにほへとちりぬるを』(2002年・67歳で上梓、現代詩人賞受賞)をその到達点としたのに対して、高橋はリアリズムを評価する観点から詩集『まぎれ野の』(1990年・55歳で上梓。晩翠賞、野の文化賞受賞)を最も評価するとした。
 高はこれを引き取って、『まぎれ野の』には、木村の詩の殆どの要素(リアリズム、身体性、農とムラへのこだわり、反戦意識、演劇性・映画性など)が揃い、しかもそれらが一定水準の表現で各作品に定着されている。そういう意味ではこれが達成点であり、そのなかの演劇性・映画性をとことん突き詰めたという意味では『いろはにほへとちりぬるを』が到達点になるだろう、などとまとめた。
 木村は、「真壁仁を第二の父、黒田喜夫を兄と呼んでいるが、どんな影響を受けたか?」との質問に「励ましを受けた」とだけ答え、詩法への影響については語らなかった。
 高は、真壁仁の処女詩集「街の百姓」を取り上げ、これが一見百姓を描いているようでいて、実は西洋かぶれのモダニズム作品で構成されていることを紹介し、真壁は「農民詩人」と呼ばれるような存在ではないこと、そして木村は詩法上は真壁の影響を受けていないと思われることを暗示した。

 また、木村は、戦争体験についての質問に、「戦争で父や叔父を失った体験は自分の血肉となっている。反戦は自分の根本にあるものだ」と応えた。
 高は、それがなぜ「自分の根本にあるもの」なのか、高自身の見方を木村に提示して問いかけたかったのだが、時間が限られているなかで議論が拡散するのを危惧して諦めた。
 そして、最後に「TPP合意によって、ますます農村は疲弊していくだろう。木村さんはこれからどうしていくのか?」と問うた。
 これに対して木村は、「ムラは滅んでいくだろう。自分はその滅びの過程を生きながら、死ぬまで〝滅びの美学〟を詩に綴っていきたい。」と語った。

 その後、会場から詩人会会員の阿蘇豊の質問と原村監督の発言があり、あっという間に濃密な時間が過ぎた。
 なお、原村監督の著作『無音の叫び声~農民詩人・木村迪夫は語る』(農文協)には、彼の木村迪夫の詩の世界に対する視点や評価が詳しく記されている。これは、映画の本ではなく、原村政樹の「詩人・木村迪夫論」というべき内容である。(了)                                                                                                                               


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Posted by 高 啓(こうひらく) at 01:00│Comments(0)山形県詩人会関係
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