2012年05月03日

山形詩人ミーティング2012

山形詩人ミーティング2012

山形詩人ミーティング2012

 2012年4月7日(土)、山形市内のカフェ「蔵オビハチ」を会場に、「山形詩人ミーティング」が開催された。
 これは、『山形詩人』発行者の高橋英司と同誌同人の高啓が呼びかけ人となって、県内詩人の近刊詩集、つまり、いとう柚子『月のじかん』(書肆犀)、高橋英司『マネキン女とネクタイ男』(ミッドナイトプレス)、高啓『女のいない七月』(書肆山田)の3作品について忌憚ない批評を交わす場として企画されたもの。各詩人が所属する同人誌の枠を超えた合同合評会である。(ちなみに、「山形詩人ミーティング」というのは仮の名で、同人誌『山形詩人』と直接の関係はない。)
 このような合同合評会は、他の県内詩人の詩集が発行された際に、高橋英司と高啓の仕掛けで数年前にも開催されたことがある。今回は、高橋も高も呼びかけ人でありながら俎上に乗せられるという立場だったが、マンネリ化しがちな同人同士の合評会の枠を越えた意見交換にしたいものだと、このような“自作自演”を敢えて企画した訳である。もっとも、当日の運営は新庄市在住の詩人・近江正人氏にお願いした。
 参加者は、上記詩集の作者3名と近江氏のほか、相蘇清太郎、平塚志信、関充利、島村圭一、松田達男、菊地隆三、比暮寥、阿部栄子、佐野かおり、の各氏(計13名)。このうち、関氏は元山形新聞の文化欄担当者。他は県内の詩人たちである。
 
 さて、会は、まず作者が自分の詩集の中から詩を一編朗読し、次に各参加者がその詩集に対して感想や批評を述べるという形式で行われた。
 以下、この場で話された内容を振り返ってみるが、録音もメモもないうえ、高啓はビールと日本酒で酔いが回って記憶が定かでない。そもそも人の話を聞いていなかった部分もあるので、かなり部分的かつ偏った話になる。さらには、高啓が後日想起したことと当日の意見交換の内容が混同されてしまっている点もあるだろうから、そこをご海容のうえお読みいただきたい。

 いとう柚子『月のじかん』は、作品の完成度が評価され、2012年度の「山形県詩人会賞」と「山形市芸術文化協会賞」を受賞した詩集であるが、その内容については、これまでの詩集にくらべてやや不満だとする声が上がった。近江正人氏は、これまでの詩集『まよなかの笛』(1987年)や『樹の声』(2000年)にあった“裂け目”が消え、つるりとした陶器のような印象になったと述べた。これを高啓流に言い換えれば、自己世界に開いていた危険な裂け目を塞いで、精神の安定化を図ったように見えるのでもある。
 タイトルポエムである作品「月のじかん」に「ルナティック」という言葉が出てくるが、これが話題になった。
 この用語を使うというのは、参加者が指摘したようにいかにも高校の英語教師だったこの詩人らしいところだが、美しくも狂おしいイメージを想起させるこの形容詞をここでこのように使うことは、作品から受ける印象とは相反して、かならずしもクールなことだとは言えない。
 じぶんなりに言えば、作者は“月の光のなかの光景”を叙情的に描くことであの恐ろしい裂け目に土を入れてその存在を隠蔽しつつ、その土盛りの上に舶来製の記念碑を立てるかのようにこのけばけばしい外国語を使っている。つまり、自ら<真夜中の声>を隠蔽したのに、この言葉によってその隠蔽行為を露出してしまっているのだと思われた。

 高橋英司『マネキン女とネクタイ男』については、多彩な手法で効果を上げているが、詩集の題名や装丁をここまでポップにする必要があったのかという声が上がった。
 高橋氏自身によると、編集者からも題名をもっと無難なものにした方がいいと勧められたそうであるが、本人は断固自分の意見を通したとのことであった。
 高橋英司氏は、「全国から多くの詩集が送られてくる。自分はそのほとんどに目を通すが、マメに目を通すのは容易でないから、贈呈を受けてもろくに目を通さない有名詩人たちも多いことであろう。だから、とにかく手にとって中身を読んでもらうことが重要だという認識をもっており、そういう観点から詩集作りをした」という趣旨のことを言っていた。
 高啓は、この詩集のタイトルや装丁はとてもいい。出版社の選択も含め、狙いにぴったりだったと思うと述べた。
 高橋作品の虚構性にも話題が及んだ。この詩集の作品は虚構によるものが多いが、定年前に役所勤めを辞めて突然詩作を始めた父を描いた「父」という作品については、詩人本人の記憶を語るように書かれており、他の虚構の作品よりも好感がもてるという感想に対して、高橋氏自身は「これも虚構。これは父の話ではなく、自分を<父>という存在に仮託したものである。」と述べた。
 高啓は、山形新聞の文化欄「味読・郷土の本」という書評コーナーに寄稿したこの詩集への書評(2012年4月25日号掲載)に言及しつつ、「何が虚構で、何が虚構でないか。また、虚実ない混ぜた作品をライトバース調に書くことで、ほんとうは読者にどのような作者についてのイメージを持たせたいのか。それがわかる人にわかってもらえればいいという姿勢で作品を作ることはやめたほうがいい。個人的には『出発』のような叙情詩に戻って欲しいと思っている」というようなことを述べた。(『出発』は高橋英司の処女詩集。H氏賞候補になった。土曜美術社出版販売刊『新・日本現代詩文庫 高橋英司詩集』に収録されている。)

 さて、最後にじぶんの詩集『女のいない七月』について。
 高橋英司氏からは、「全国からたくさんの詩集が送れられてきて、自分はそのほとんどに目を通すが、これはこの1年で読んだもののうちで5本の指に入る」と評価していただいた。
 菊地隆三氏からもタイトルポエムの「女のいない七月」などに評価の声をいただいたが、その後、この詩集についての議論は、高啓の作品について論評されるときはいつも大方この話になってしまうのだが、“作品中に書かれたことはどこまで事実なのか?”ということに収斂した。
 じぶんは、意に反していつも結局この話になってしまうので、この場では「ご想像にお任せします」と答えるつもりでいたのだったが、今回はちょっとだけ事情が違った。
 それは、平塚志信氏が「この詩集を読んで『智恵子抄』を連想した。たとえば、宮澤賢治の『永訣の朝』の評価を考えるとき、あれがぜんぶ虚構だと分かったとしたら評価はどうなるだろうか。たぶん、いまのようには評価されていないだろう。だから、この詩集の評価について論じる場合、描かれたことが事実かどうかの話は避けて通れない」というような趣旨の発言をしたからである。
 これに対して、じぶんは、「『冬の構造』は事実に基づいている」と答えた。
 その後、近江正人氏が、「高啓のこれまでの詩集は、全身から血が噴出しているようで、読んでいくのが辛かったが、この詩集は比較的落ち着いた表現で、読ませるものになっている」というような趣旨のことを述べた。・・・で、それ以降は、『女のいない七月』について誰からどんな論評がなされたのか記憶が定かでない。
 ただ、この詩集の最後に収録されている「仙台行、2011年3月の。」の評価がきっかけになって、震災を扱った作品に関して、若干の議論が交わされたことは少し憶えている。
 高橋英司氏は、世間にあふれている震災を扱った詩作品について、ほとんど評価できるものがないという趣旨のことを述べ、それらに比べると高啓のこの作品は評価できるとしたが、比暮寥氏からは、高啓も含め、世の詩人たちはもっと震災の悲劇に直接的で真摯に向き合って詩を書くべきだという意見が述べられた。これに対して、高橋英司氏は「自分は震災の詩は一切書くつもりはない」と言明した。
 高啓は、「仙台行、2011年3月の。」は震災後の情景を描いているが、震災の詩を書いたつもりはない。もしこれが評価されるのなら、それはこの作品が震災後の情景を描いているようでいて、震災以外のものを描こうとしているからだと思う・・・というような趣旨のことを述べた。

 会場の「蔵オビハチ」は、区画整理事業によって新たに切られた道路に露出することになった古い土蔵を、カフェとしてリフォームした建物。ジャズなどのミニライブにも使用されるスペースである。雰囲気がよく、しかも備え付けのピンマイクが使えて重宝した。
 今回はクローズドで催したが、客が入るかどうかは別として、いつかこのような詩のイベントを一般開放で開催してみたい。
                                                                                             





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Posted by 高 啓(こうひらく) at 18:52│Comments(0)山形県詩人会関係
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