(4) 事業者選考までの過程で何があったのか。
前回の書き込みで、筆者は当選した平田設計案が山形市の「要求水準書」に定めた要件に合致しないのに当選となった理由を、
【 「設計者」の選定を「建設業者」の選定と抱き合わせで行ったために、「談合」で決まった「建設事業者」が連れてきた「設計者」の「設計案」を受け入れざるをえなくなったことにある 】と述べた。
また、根本原因は、「設計」、「建設」、「施設の維持管理」、「ホールの設備運用」、「文化事業の企画実施」という多岐にわたる専門的業務を一括して発注する「DBO方式」を採用したことによって、応募事業者が極端に少なくなってしまったことにもあると指摘した。
前回は「ホールの設備運用」を担う地元企業が2社程度しか存在しないことに着目して応募するSPCが極めて限定されると述べたが、じつはそれだけではない。
そもそも応募に当たってのハードルが高い。プロポーザルに応募するためには設計案の作成に手間暇がかかるみならず、異分野の専門企業に声をかけて集め、調整を行い、SPC(特別目的会社)への参加すなわち「出資」の合意を取り付ける時間と労力が必要になる。
このことから推論されることは次のような事情である。
① プロポーザルに応募する準備にかなりの負担(時間、労力、経費)が生じる。本気で事業を取りに行こうとしたら、必ず当選しようとして談合その他の工作を普段より濃密に行うだろう。
② 一般競争入札・指名競争入札などの場合は談合で受注企業が決まる。「競争」の体裁をとるためにほかの企業は「お付き合い」で入札に参加する。落選しても、その無駄な時価と労力は「お互い様」ということで必要コストとして受け入れる。
今回のDBO方式のプロポーザルで談合があったと仮定したら、お付き合いで「落選する役」を演じる事業者は、その応募案作成にできるだけ時間・労力・費用をかけないですまそうとするだろう。つまり「個性的なアイデアや工夫のない平凡な案」を提出することになるだろう。また、プレゼンにあたっては御座なりな姿勢で臨むかもしれない。
③ すると「審査員」は、本気でSPCを構成し、本気で設計案を作成してきた(談合で本命とされている)事業者の案を評価することになるのはむしろ「自然」である。とりわけ今回のように「2社」しか応募がなかった事案においては。
④ ただし、ここにふたつ大きな不安もある。
つまり、第一に、「対抗馬の事業者が万が一談合に従わず本気で応募してきた場合」。そして、第二に、談合で本命とされている事業者が「不適切な設計案」を提出してきた場合である。
このような場合、「審査員」がまともだと対抗馬が当選となる可能性がある。これを避けようとしたら、間違いなく既定路線にそって本命を当選させる「審査委員会」が必要になるだろう。
さて、募集要項等に関して応募予定者から出された質問とそれに対する市当局からの回答集のなかに、次のような興味深い質疑応答が見られる。
質問「事業者検討委員会のアドバイザーは、審査の際に持ち点はあるのでしょうか。」
回答「ありません。」
これは「審査委員会」(このケースでは「事業者検討委員会」)のメンバー(各設計案に評価点をつける審査員)が市当局の幹部職員だけになっており、専門家らしき人はすべて「アドバイザー」という位置づけであることにたいする質問である。
「アドバイザー」なのだから普通に考えれば審査権限はもっていないと判断できそうなものだが、それでもあえてこのような質問をしたということは、質問者がこのように「選考にあたって専門家がまったく投票権をもたない」という方法に、かなりの違和感もしくは大きな疑問を抱いていたことが見て取れる。こんな審査会は見たことも聴いたこともない、と。
次回はこの選考委員会について、もう少し推理してみたい。