2021年02月17日

東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2


前回の続き


東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2



東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2



 遠藤真帆「I AM HERE」
 「生きていて辛いと思うことは、嬉しいことと同様に山のようにある。社会に属しながらも、受け入れられずに、ここで生きて存在している私たちの事を卒業制作という特別な区切りを使って、ここに残そう。」とある。
画像の一枚目は布の表面でH4,000×W2,000mm、二枚目は裏面でH3,000×W2,000ある。
 表面の中央に描かれた白い服をまとった女性(?)の手足が二組描かれているところが存在の不安定さを感じさせるが、この人物像は世界の生贄のようでありながら、聖なる巫覡のようにもみえる。裏面の絵は、表面の白い人物とは逆に、清濁を併せもちつつまさに“存在する”何ものかを表現しているかのようだ。



東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2



 關 越河「抱擁」
 「7年、この土地で暮らしながら常に自然や他者との向き合い方を考えさせられた。(中略)相反する気持ちが内側でぶつかり合い、葛藤が生まれる。しかし私にとっても絶対的な『意味』とは思い悩むことでしか存在し得ないのだ。この環境が支えてくれるから私は抗い続けることができる。そのことをしっかりと胸に刻んでいきたい。」という。
 作者は日本画コースに学んだようだが、その卒業制作が杉板の箱と布団によるオブジェ(それもどちらかというとシンプルな作品)になるところに引っ掛けられた。
 作者は東京の出身で、この山形で学部生を7年もしてきた。「この環境が支えてくれるから」抗うことができるものとは何なのだろうか。
文面からは「この土地」で考えた「自然や他者との向き合い方」が作者を支えているかのようにも解釈できるが、“我悩む、ゆえに我あり”は、45年もこの土地で暮らし他者との向き合い方に日々苦悶しているじぶんにも当て嵌まる。


東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2



東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2



 谷村 メイチンロマーナ「エキゾチックファイアードラゴン『マスダ三兄弟』」「マジカルユニコーン『ハイエル姉妹』」
 「大人になって中野ブロードウェイで見たソフビのフィギュアがかっこ良かった。」という経験に触発された作品だという。発砲ウレタンにエアブラシでアクリル絵の具が塗られ、麻紐が刺繍のように埋められている。「三兄弟」「姉妹」というところに引っ掛けられる。昔、お祭りに出た見世物小屋で、双頭の羊や牛の剥製(?)をおどろおどろしく差し出されて見た記憶が蘇える。
 ソフビの質感とアメリカ・アニメ的(?)な図柄というポップな表象を用いながら、その毒々しさやソフビとは真逆の、いい意味での粗雑さが攻撃的で、観る側の心をどこかささくれ立たせる。


東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2



 石川美紀「set me free」
 「コロナ禍において一人で過ごす時間が多くなった一方、SNS上で私たちは一人でいる時も誰かと繋がっていて、それが時に私たちを苦しめることがあります。自分以外が輝いて見え、自分が何者なのか考えることに疲れ、先が見えない不安で眠れない夜を思い制作しました。」とある。
 乱れた髪と傷だらけにも見える身体。床に風呂がる白い布は浴衣だろうか、ワンピースだろうか・・・、若い女性の不安がリアルに迫ってきて、少しの間息を飲んだ。


東北芸術工科大学 卒業制作展2021 その2



 伊藤寛晃「Disappearing」
 「生活している中で自分が台湾との混血だということや、巨大な権力や体制について考えることが増えた。日本での観光地的な印象とは違う、現在まで続く様々な権力に支配され続けている台湾を、この作品を通じて様々な人に知ってもらうきっかけにしたい。」とある。
 中国と米国に挟撃されているのが作者の抱く台湾のイメージなのだろうか。習近平と毛沢東、ドナルド・トランプをカリカチュアした中・米の両側の絵にくらべて、中央の台湾と思われる絵は存在感が薄くしかもひどく統合を欠いている。これは作者が抱く台湾のイメージなのか、それとも「混血」たる作者自身のイメージなのか、その両方なのか・・・。観るものに思考を迫る作品だ。
 このように直截的に政治や情況を扱った作品は、この大学の卒展では珍しい。とても新鮮だった。



 (続く)



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Posted by 高 啓(こうひらく) at 13:54│Comments(0)美術展
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