2013年07月26日

大急ぎ サロベツ原野行(その4)






 さて、牛乳鍋を一緒につついた二組の夫婦の同宿者とは、こんな人たちだった。
 まず、年長の方の夫婦(夫が80歳前後で妻が70代半ばくらい)について。
 この夫婦は大阪在住。今回の自動車旅行はこの日で14日目ということだったが、運転はもっぱらご主人の方で、そのご主人は「マイペースで運転するから、何日車で旅しても運転で疲れるということはない」と言い、北海道や東北をあちこち周遊しているとのことだった。また、海外旅行の経験も豊富そうで、極東ロシアにも旅したことがあると言っていた。さらに、ご主人の趣味は山スキーだというので、この年齢でスキーを担いで冬山に登るとは・・・と、恐れ入った。
 健康で経済的余裕があって年金生活をエンジョイしている夫唱婦随の老夫婦という印象だったが、会話のなかで豊富町の商店街の寂れた様子から全国の地方都市の商店街も同じ状態だという話題になり、じぶんが「大規模店舗の規制を緩め過ぎたからですよ。イオンなんか、自分が形成した大規模小売店のエリアでさえ、儲けが少なくなるとさっさと捨てて別のところに移りますからね。後は寂れた街区が残されても知ったことかという態度で、酷いものです。」などと語ると、ご主人は不満そうな顔をし、その一方で奥さんの方は如何にも申し訳なさそうな表情で「申し訳ないことですね・・・」と、何か自分も大規模店の経営側であるかのような口ぶりで語るのだった。
 もう一組、団塊の世代くらいの年齢に見える夫婦の方は、“チョイ悪オヤジ”風のおしゃべり好きな旦那さんと品の良さそうな奥さんのカップル。今回の旅で北海道滞在何日目かという質問に、「75日め」というので驚いた。事情を聴いてみると、この夫婦の自宅は関東だが、北海道に家を借りて長期滞在しているのだという。この夫婦と年長の上述の老夫婦とのやり取りを聞いていると、北海道ではあちこちの市町村に長期滞在者用の市町村営住宅があり、この夫婦は美瑛に借りていた滞在者用住宅を期間満了で追い出され、士別の同じような住宅に移っている。そしてその住宅から道内へ旅行に出かけているのだ、という。
 また、これらの住宅は夏季は人気で抽選倍率が高いとか、市町村役場の職員と顔見知りになって情報をもらうのがコツだとか、1ヶ月の家賃は家具つきで7万円余りだとか、冬の北海道の風景が素晴らしい、冬でも室内にいれば寒い想いはしない・・・などという話をしているのだった。

 ところで、夕食後、たまたま「明日の城」の居間にあった田舎暮らしに関する雑誌をめくっていると、この北海道の「ちょっと暮らし」の記事が載っていた。
 それによると・・・全国各地の過疎の道県や市町村では、都会から移住者を獲得するための施策をいろいろと打っているところだが、北海道の場合には完全移住するとなると二の足を踏む人が多いのが実態で、従前の移住者の獲得事業はなかなか成果が上がらなかった。そこで、平成17年、道庁の知事政策部の職員だった大山慎介氏は「ちょっと暮らし」というコンセプトを立て、道内の市町村の空き家を利用して宿泊施設をつくる事業を始めた。これが当り、現在は道内で50を超える市町村が長期滞在者用の住宅を設置・運営しているのだという。
 このチョイ悪風オヤジとは、翌日豊富駅で帰りの列車を待つ間にも立ち話をしたのだったが、彼はそのときカラビナで腰に吊るした幾つかの鍵のなかから、町営住宅という文字が記載されたタグのついた鍵を見せてくれたのだった。
じぶんが「留守中、ご自宅はどうしているのですか?」と尋ねると、「ほったらかしている。自分は都会が嫌いだから、自宅を売って北海道に本当に移住しようかと思っている。」と語った。
 それに「羨ましいですが、うちは女房が田舎嫌いなのでそんな暮らしは無理です(笑)」と応じ、「それに、都会の方が思っている以上に、田舎の医療体制は良くないですよ」と付け加えた。

 さて、この二組の高齢者夫婦と会話を交わして、次のような想いを抱いた。
 まずやってくる単純な感想は、二組ともいわゆる“悠々自適”の老後を送っていて、羨ましいなぁというものである。そして次に、1泊2食4,900円で相部屋の安宿に泊まっていることをどう考えたらいいのか、つまり、その程度の経済的レベルの人たちなのか、あるいは経済的にはかなり余裕があるのに、旅慣れしているがゆえにあえてこのような安宿も利用しながら旅のバリエーションを楽しんでいるいわば“通”の人たちなのか・・・ということが気になったのだった。
 さて、この点については、会話しながら観察してみると、大金持ちには見えないがそこそこ経済的な余裕があり、かなりの旅行通であるように見えたのである。
 しかし、たしかにこんな風に通らしく長い旅の生活や長期滞在を楽しみたい気持ちは自分にもあるものの、こういう生活を繰り返し長く続けていて楽しいだろうかと自問すると、その答えはどうもイエスとはならない。お気楽で享楽好きのじぶんではあるが、どうもこれが「生活」になると思うと、幸福感を感じるとはいかなそうなのである。
 そうすると次にやってくるのは、では、じぶんはどんな“老後”を過ごせば幸福なのだろうという自問である。

 そのまえに、だが、じぶんたちの時代、つまりすぐ数年後に迫った定年退職後については、たとえば団塊の世代以前のような“悠々自適の老後”というのは、悲しいことになかなかイメージできない。
 じぶんが65歳になったとき、団塊の世代はちょうど75歳前後で、このあたりの時期が本邦で現役世代に対する65歳以上の割合がもっとも高くなるのではなかったかと思う。すくなくとも、団塊の世代が「後期高齢者」の域に入り、医療や介護に膨大な費用がかかることになるだろう。こんな時代に、われわれ団塊以降の世代がのんびり“悠々自適の老後”に入るわけにはいきそうにないとも思われてくる。
 また、もっと基本的なことを考えると、大雑把な言い方をすれば、団塊の世代なら40年働いて30年ほど年金生活を送るということになるだろう。しかも、専業主婦だった人も、夫亡きあと本人が死ぬまで年金を受け取り続けるのである。こう考えると、そもそも現行の年金制度というのは、少子高齢化云々の以前に、定年退職後10年も生きれば大方の人間があの世に行ってしまう時代においてのみ成り立つ社会保障制度だったのだと思われてくる。
 旅行記からだいぶ脱線するが、話のついでにじぶんの考えを述べると、じぶんは「75歳定年制」論者である。理由はふたつ。ひとつは、じぶんの経験上(じぶんが周りの年長者たちを見ていると、という意味だが)、人間は75歳までその能力を伸ばすことができる。したがって、普通に健康(つまり普通に加齢している状態)であれば、75歳まではちゃんと働ける。もうひとつは、65歳から74歳を「高齢者」から「現役世代」に移すことで、少子高齢化問題のいくつか(たとえば現役世代何人で一人の高齢者を支えるか、などという文字通り重苦しい問題)が幾許かなりとも解決し、少子高齢社会についての重く暗いイメージが変わるからである。安易で、かつは魔法のような解決法だが、これはけっこういけると思う。要するに、“イメージから変われ”なのである。
 もちろん、75歳まで現役で働き続けるためには、雇用や労働の諸制度を大きく改変していかなければならない。定年制の廃止及び65歳以降の再雇用や再就職を保証・支援する制度、障がい者の雇用促進制度と同じように各事業所が66歳から 75歳までの者を一定割合雇用しなければならないとする制度などを導入することが必要と思う。
 たとえば、ハローワークの求人情報をみると、主婦層を想定しているかのようなパートタイマーへの求人が多く、これらの仕事では、時給の低さと就労時間数が限られていることによる月収の少なさのために、応募者が足りない状況を見かける。外国人労働者の受け入れを増やすのでなければ、これから労働力不足は深刻化していくだろう。だから、労働市場が高齢者に、より開かれていく可能性はあると思う。

 で、結局は、じぶんはどうするか、どんなふうに定年後(60歳以後)を生きるか、という問題に改めて対面する。
 じぶんは遊び好き・暇好きではあるのだが、心身の状態が許すかぎり働き続けたいと思う。だが、定年後の働き方はそれまでの働き方と同じにはしたくない。願望とその実現可能性の距離をどう測り、いくつかある願望に向けて他の願望や消費生活の質を犠牲にして挑戦すべきかどうか、いやそれ以前にほんとうにその仕事はじぶんがしたいことなのかどうか・・・、そんなことを考え始めると、いつの間にか五里霧中の“サロベツ幻野”に迷い込んでしまっているのである。

 (閑話休題)

 さて、この日は、チョイ悪風オヤジ夫妻と一緒に富岡駅まで「明日の城(じょう)」のご主人に車で送ってもらい、豊富発7:50の札幌行き「スーパー宗谷」に乗り込んだ。
 音威子府あたりからじぶんはウトウトしてしまい、ご夫婦とはそれきりになったのだが、またこうして北海道を旅すれば、いつかどこかでめぐり遇うことがあるかもしれない。
 このあと、じぶんは旭川に降り立った。評判の「旭山動物園」を見物するためである。(続く)

 (註)写真は旭山動物園のクモザル。思索する仙人のような佇まいである。



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Posted by 高 啓(こうひらく) at 01:40│Comments(0)歩く、歩く、歩く
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