2012年08月21日

弘前の想い出







 十和田~弘前~盛岡と車で巡った盛夏の旅、・・・その最後は弘前について。

 黒石市を出て弘前市に近づくと、岩木山が前方に姿を現した。
 岩木山はコニーデ型の独立峰。津軽平野に聳え立つその存在感は流石にどしんとくる。
もっとも、岩木山にはどこかしら女性的なやさしさを感じる。独立峰として同じように聳え立つ岩手山が、男性的な険しさとか近づきがたい厳しさを感じさせるのとは対照的である。岩木山は秋田県南部から見る鳥海山ほど美人ではないが、美人過ぎないところがまた愛着を抱かせる。
 正面に構える岩木山に対面して気分が高揚したのか、運転しながら「きいいっと帰ってぇ~くるんだと、お岩木山で手を振れば~♪」と、つい松村和子の「帰ってこいよ」が口をついて出てしまった。
もっとも、助手席の連れは「オイワキヤマ」が「イワキサン」だとピンと来ず、なぜこの歌を突然歌いだしたのか訝しげにしている・・・(苦笑)

 弘前は、桜で有名な弘前公園をはじめとして、見物場所の多い観光都市である。事前にガイドブックを見てカフェめぐりをしようと話していたのだが、いざ市内に入るとまだホテルのチェックインには早く、どこに車を置こうか迷う。そこで、通りがかった市役所の向かいにある弘前市立観光館の地下駐車場に入り、同館で観光情報をゲットすることにした。
 カフェめぐりのほか、弘前での目的はもうひとつ。津軽三味線の演奏のライブがある居酒屋に行くことだった。この観光館でその情報を尋ねると、ライブのある居酒屋が4件ほど記載された一枚のコピー紙を手渡してくれた。ほかにも、ここで市内観光の地図と市内の45店(!)が記載された「Hirosaki Apple Pie Guide Map」というパンフを入手した。(このマップには45個の個性的なアップルパイたちが写真と解説付きで掲載されていて、見ているだけでも楽しくなる。)







 ただし、この日も炎天下。あちこち歩き回るのは難儀だったことから、この近辺の観光スポットを巡ることで良しとした。
 そこで最初に訪ねたのは、市役所からほど近い「藤田記念庭園」(写真1枚目)の洋館のカフェ。ここでアップルパイとコーヒーで一服。アップルパイが何種類かあって、ウエイトレスさんがそれぞれの特徴を詳しく教えてくれた。ここの雰囲気はなかなかよかった。
 ジリジリと肌を刺す午後の陽射しの下を、汗を流しながら市役所近辺を歩き、写真2枚目の「旧弘前市立図書館」や「旧東奥義塾外人教師館」、「青森銀行記念館」などの洋風建築物を見物した。1906年のルネサンス式建造物である「旧弘前市立図書館」の内部は思ったよりも狭く、蔵書のスペースや閲覧場所はかなり限られていた。当時は建物の使い勝手よりも外観のデザインを重視した様子が覗える。
 「青森銀行記念館」は、旧五十九銀行本店として明治に建造されたルネサンス式で和洋折衷の建物。何気なく玄関を覗いたら、カウンターの向こうの机に人形が置かれているように見えたので「あれは人形だよね?」と連れに声をかけたら、その「人形たち」が「いらっしゃいませ」と言って立ち上がったので、驚いて逃げるように出てきてしまった。・・・行員の人形のように見えたのは記念館のスタッフだった・・・失礼しました。(汗)
 この銀行は、しかし覗いてみるだけの価値はある。重厚な木製カウンターは黒光りしていて、その威厳ある広い空間に「昔の銀行はこんな権威ある機関だったんだなぁ」と感じさせられる。
 まだ若干時間があったので、車をピックアップし、ズラリとお寺が立ち並ぶ「禅林街」や弘前公園北側に接する武家屋敷跡「伝統的建造物群保存地区」を車で回ってみた。
 さて、そろそろチェックインするかと、ホテルへの行路を確認するために道端に停車して地図を広げていると、近くのお宅のおじさんが近づいてきてホテルまでの道を教えてくれた。「このホテルは表からだと駐車場に入れないから、裏側の道から行って。」と教えてもらったので助かった。

 宿泊したホテルは弘前公園近くの「ホテルニューキャッスル」。結婚式場をもつが、やや旬を過ぎた感じの老舗的なホテルだった。料金は安かったのだが、それもこの日だから。翌日からは「弘前ねぷた祭り」で特別料金になるのだった。古いホテルということもあり、トイレがウォシュレットでないのが減点という感じだが、ネットの宿泊料金からすればまずまずリーズナブルだった。
 ホテルで汗を流してから、夕食へと出かける。先ほど観光館で入手したコピーを見て、ホテルからもっとも近い「杏」という店を訪ねたが、18:00前に行っても既に19:00からの第1回のライブは満員だと張り紙がしてある。月曜日なのに満員とは、人気の演奏者なのだろう。・・・仕方なくここは諦め、別の店に今度は事前に電話して、満員でないこととライブ演奏の時間がフリー(随時適当な頃合い)になっているということを確認した。その店の名前は「あどはだり」という聞いたことのない言葉。・・・その場所は「杏」という店からだいぶ離れており、意図せずして、弘前の目抜き通りである土手町の街並みを500~600mにわたって見物して歩くことになった。
 (ところで、このとき杏という店の辺りで、地元弘前市在住の詩人・藤田春央氏によく似た人物が自転車で通り過ぎるのを見かけた。藤田氏は2011年10月に青森市で開催された日本現代詩人会の東日本ゼミナールを企画実施した中心人物のひとりで、自作詩の朗読者として高啓を呼んでくれた方である。ゼミナールの翌日、参加者のために弘前市内探訪を計画してくれたのだったが、高啓は都合で参加できなかった。今回個人的な旅行で弘前を訪れた理由のひとつに、そのときの心残りがあったのではある。)

 地方都市の御多分に漏れず、各店舗の閉店時間が早く日が暮れると寂しい街にはなるが、この街を歩いて感じるのは、“津軽”というひとつの文化圏の中心都市だという矜持みたいなものである。矜持といっても大げさなものではなく、いわば一定の都市機能をひと揃え持っており、良くも悪しくもその機能や雰囲気に“浸っている”という印象があるということだ。これは弘前が県庁所在地ではないことにも拠っているだろう。
 大通りや路地にいくつも喫茶店があるのがいい。たとえば山形市の中心街では、チェーン店のカフェやファストフード店に押されて、昔ながらの喫茶店はごく少なくなってしまった。喫茶店がたくさん残っているということは、当然それを利用する市民がいるわけであり、それだけ“喫茶店に入る”という生活文化が維持されていることを意味する。
 
 さて、まったりと歩いて津軽三味線ライブ演奏の居酒屋「あどはだり」に着いた。派手な看板が目立つが、やや場末感が漂ってもいる。中に入るとじぶんたち二人の貸切状態である。飲み物と料理を注文するが、客がじぶんたちだけなので、いつになったら演奏を始めてくれるのかと少し心配になってくる。
 奥のカウンターの中で初老の男性とその奥さんらしき年配の女性が料理を作り、30歳前後の女性が注文をとったり料理を運んだりしている。店内には大きな観光キャンペーンのポスターが張ってあり、その中央に三味線を演奏する姿で映っているのが、どうもこの店のマスターらしい。その撮影場所がこの店内のようでもあり、さらにはこの方が三味線の名手らしいということも覗える。
 しかし、いまそこに見えるマスターは、病後なのか、ややつれた姿で足が不自由な様子である。料理の仕込みを終えたころ、徐に店の奥のマスター専用に設えられたと思われる椅子に座り、そこで食事か晩酌かを始めたように見えた。
すると料理を運んでいた女性が料理服の上にハッピを着て、「では、三味線を弾きます」と言った。
 彼女は客が打ち解けるように話を交わしながら、「津軽あいや節」を弾き、それからわれわれが山形から来たと聞いたからなのか、一度花笠踊りの祭り見物をしてみたいと言って「花笠音頭」を披露し、続いてさらに3曲ほど津軽民謡をメドレーで演奏した。
 彼女は、「津軽三味線」とは、この「津軽三味線」と呼ばれる楽器またはその楽器で演奏されることを指して言うのでありその演奏法を言うのではないこと、「津軽三味線」を弾く奏者はたくさんいるが「津軽民謡」の歌い手は少なくなっていることなどを話してくれた。
 彼女の津軽なまりの語り口、そして津軽のリンゴを思わせる顔立ちに好感を抱いた。最後にお名前を訪ねると、「相馬美幸」と書かれた名刺をくれた。帰形後にネットで調べると、ここのマスターはやはり三味線の奏者で「相馬幸男」というお名前だった。美幸さんは娘さんなのだろうか。・・・とはいうものの、奥の専用席に陣取ったマスターは、師匠として弟子の演奏をチェックしているかのようにも見えた。
 なお、この「あどはだり」店内の演奏の模様はYou‐Tubeにいくつか動画がアップされていた。美幸さんと思しき人が独奏している画像もあった。http://www.youtube.com/watch?v=Jolq0Ly2ojk

 ところで、「あどはだり」という津軽弁には、「もう一度」、「おかわり」、「アンコール」などの意味があるという。
 相馬美幸さんは「ねぷた祭りを観に来たのですか?」と尋ねてきたが、「いや、祭りの期間はホテルが取れないので、祭りを避けて歩く旅です。」と答えると、帰り際に「近くでねぷた祭りの稽古をしているので、よかったら見物していってください。了解を取りましたから。」と声をかけてくれた。








 その稽古の様子を窺い、だが近くに顔を出すのは憚られたので、遠目から撮ったのが3枚目の写真である。仮設の格納庫から弘前ねぷたの山車が覗き、その前で笛や鉦や太鼓で男女がお囃子の稽古をしている様子がぼんやりと映っている。その場の人たちの雰囲気から、祭りに向かうちょっと浮き浮きした気持ちが伝わってくる。







 ホテルへの帰り道、酔っ払って歩いていると、突如、奈良美智の作になる白い犬の大きなオブジェ(吉野町緑地公園の“A to Z Memorial Dog”)が照明に浮かび上がった。ガイドブックでその存在は知っていたのでそれほどには驚きはしなかったが、辺りには道路にも人影はないなか、何も知らないでこのオブジェに突然対面したら、かなりぎょっとすることだろう。・・・“へぇー、弘前は面白い街だなぁ”と思い、帰途の途中でついついもう1軒、今度は土手町の外れの古いビルの1階にある洋風パブ「Bar Grandpa」に入ってしまった。
 ここがなかなかいい雰囲気で、料理もまずまずだった。男性の店員さんがカッコいいせいか、店内の照明が暗い割には女性客が多い。津軽の長い冬を過ごすにはこういう店がいいのかな、などと思いつつ、地元の女性たちの話し声のなかで更け行く弘前の夜を暫し味わったのだった。







 さて、この十和田~弘前~盛岡と巡る3泊4日の炎天下の旅は、幸いなことにこうして印象深いものとなった。回った先々で言葉を交わしてくれた方々に感謝しつつ、ひとまず擱筆する次第である。

(この次の日、盛岡市に立ち寄ったが、それについては先に「岩手県立博物館とアート・ブリュット・ジャポネ展」として記載しているので、この旅行記は今回で終わり。ここまでお付き合いいただいた方に感謝します。)
                                                                                                                                                                            


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Posted by 高 啓(こうひらく) at 00:55│Comments(0)歩く、歩く、歩く
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