2012年04月18日

代官山行



 「ジャクソン・ポロック展」を観た次の日、代官山に出かけた。
 代官山にちょっと洒落た「TSUTAYA」の店舗がオープンしたというので、これまでの書店やビデオレンタル店とどう異なるのか見物してみたいと思ったのである。
 代官山は数年前にも訪れたことがあった。巷で言われているほど高級住宅街という印象はなかったが、昼下がりのレストランで食事をしていると、じぶんのようなよそ者に混じってこの近辺の住人だと思わせるようなさらりとした佇まいの若い夫婦連れが来ていて、お互いに歓談している様にはそれなりにハイソ(死語か!?)な雰囲気があり、トレンディ・ドラマでも見ている風だった。
 地図で見ると「代官山町」は、街区のブロック一つ分くらいの小さな地区である。一般に「代官山」と言われているのは、東急東横線の代官山駅を最寄り駅とする、この代官山町とそれに隣接する猿楽町のことのようである。
 六本木や青山のように突っ張っていないし、表参道ほど余所行きでもない。通行人も穏やかな表情をしている。だから、確かにそこいらに金持ちは暮らしていそうだが、普段着でもそれが小奇麗ならゆったりと着いて歩けるような感じの街である。

 1枚目の写真は、代官山駅の恵比寿側出口を出たところにあった移動販売車。ここでコーヒーと焼き菓子を買った。焼き菓子はまぁまぁ美味かった。しかし、近くにコーヒーをゆっくり飲む場所はない。強いて探すとすれば、駅の反対側の「代官山アドレス」というマンションと商業施設の再開発施設の敷地内まで歩いて、その一画にある小さな公園スペースに腰を下ろすしかない。これが面倒なので、立ったまま飲んだ。
 というのも、訪れたのは日曜日だったが、11時を過ぎても多くの飲食店が開店していないのである。仕方なく、開いている店を探しながらキャッスルストリートという狭い道を下りはじめる。JRの線路に突き当たったところで線路沿いに歩いて八幡通りに出て、その通りを代官山交番の交差点まで、結果的に引き返す格好になる。キャッスルストリートから線路沿いの辺りは雑然とした住宅街という感じだが、途中でどこからともなく沈丁花の香りがしてきた。
 結局、八幡通りの煙草屋で“新しくできたツタヤはどこでしょうか?”と訊くことになり、その「DAIKANYAMA T-SITE」という再開発施設の場所にたどり着いた。まったくもって、“おのぼりさん”そのものである。(苦笑)




 で、そのツタヤだが、これまで見てきた「TSUTAYA」の店舗とはずいぶん印象が違う。看板も漢字で「蔦屋書店」と書かれている。2枚目の写真だが、このようなガラス張りの2階建の棟が3棟並び、その2階が上空通路で結ばれている。3棟とも1階は書店(一部にステイショナリー販売コーナーやスターバックス・コーヒーが入っている)。2階は各棟で中身が異なり、ビデオレンタル店、カフェ・ラウンジ、グッズ販売店(この部分には入らなかったので印象は薄い)となっている。
建物の間や裏側にはスペースがあって、屋外用のストーブ(あのブリキ製のキノコ型のやつ)の周りに椅子とテーブルが置いてあり、後庭もたむろしたりゆっくり歩いて廻ったりすることができるようになっている。敷地内には別棟のレストランやショップもある。

 書店は“やや個性的”といった感じ。(つまり“個性的”とまでは言い切れないビミョーさがある。)
 書籍の品揃えの分野が、「料理」とか「時計」とか「車」とか「建築」とか「デザイン」とかに特定されている。(ただし、総合書店のように各分野の網羅はされていない。)それに、書棚が天井近くにまであって、このフロアが本に囲まれた世界だという演出が施してある。
 じぶんは、入り口近くにあった料理本のコーナーにいきなり引っかかってしまった。料理する趣味はないし、他の書店なら見向きもしないのだが、この店ではこのように客をフックに引っ掛ける仕掛けがされている。
 料理本のコーナーが面白かったので期待して中に進んだのだが、書籍の揃い具合は、しかし、全体としては期待はずれだった。分野ごとのコーナーにも、期待したほどディープな書籍があるわけではない。ここは“探す”書店ではない。“出会い”を演出する書店を狙ったということだろう。
 文学関係書のコーナーなどは、狭い入り口から出入りする部屋のなかにあり、その部屋には天井までの本棚が四方の壁全面に設えてある。だが、本揃えは中途半端で、書店員の個性が出ているかのようで出ていないという印象だった。
 コーナーごとに担当者がいて品揃えを任されている様子が窺われたが、ひょっとしたらチーフマネジャーみたいな総括者が口を出して、個性を中途半端なものにしているのかもしれない・・・などと勝手な想像をした。なお、詩書のコーナーはひどい。田舎町の書店にも及ばない品揃えである。




 中央の棟の2階は、1階中央の階段を上っていくと、その周囲、つまり全フロアが一面のカフェになっている。四方の壁面はやはり棚になっており、車や建築やデザインなどの古いグラビア雑誌のバックナンバーが揃えられている。広々としたソファ席が置かれ、席と席の間も広く取られていて、東京のカフェらしくない空間の豊かさがあり、ちょっと高級なホテルのラウンジという感じである。
 日曜の午後、ソファの席はほとんど埋まっており、カウンター席で読書をしている客やタブレット型パソコンを操作している客もいる。メニューはよく見なかったが、グラスビールが1杯900円くらいだったろうか。ちゃらちゃらした感じの客はあまりいないから、2,000円もあれば誰でも優雅な時間を過ごすことが出来るというわけである。
 別の棟の2階は、貸しビデオ屋の「TSUTAYA」そのものなのだが、混み合っている書店とは対照的に客はまばら。DVDなどを1作品340円(だったと思う)で貸し出し、返却は専用のパックに入れてポストに放り込めばいいようになっている。送料はレンタル料に含まれているというわけだから、「電車社会」の東京では安上がりで便利だと思う。しかし、このレンタル部門には客の姿がずいぶん少ないので、これで採算が合うのか疑問に思った。

 いい意味でいちばん驚いたのは、1階の書店の一角にスターバックスがあって、客がコーヒーを読みながら書棚の本を立ち読みならぬ“座り読み”できるようにしている点である。読んでいる客に確かめた訳ではないが、見たところではまだ購入していない本を読んでいるようなのだ。もし、それが可能なら、この店は太っ腹である。・・・さすが東京、それもさすがに代官山(!)である。坪単価がずいぶんと高いだろうに、2階のカフェの雰囲気と合わせて、こういう“書店文化”を演出する店が存在することが、この国の文化レベルの水準を担うという側面は確かにあるだろう。
 薄利なうえ、万引きで深刻な打撃を受けるという書店経営が、こんな空間の大盤振る舞いで成り立つならそれだけで嬉しいことであるし、この書店を成り立たせる客たちも評価されなければならない。(もっとも、万引き防止用の電子タグが、この店の書籍にはかなりマメに貼付されているのではあるが。)

 そう思いながら店を見回すと、しかし、ふと異なった想いにもとらわれた。
 ・・・ちょっと待てよ。もしこれが赤字覚悟で経営されているなら、その意味は逆転するだろう。つまり、もし、全国で「TSUTAYA」を展開し、そこで大量の非正規労働者を低賃金で使用して利益を出しているこのグループの経営主体が、イメージアップのためのデモ店舗として赤字を補填しながらこの店舗を維持しているのだとしたら、である。
 もしそうだとするなら、この施設は“代官山に咲いた沈丁花”ならぬ“猿楽町の仇花”であるだろう。東京が全国の「地方」を搾取し、“上流”を気取っているという醜悪な姿である。そうでないことを祈りつつ、このサイトを後にしたという次第である。(とっぴんぱらりのぷ。)        

                                                                                                                                                                             


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Posted by 高 啓(こうひらく) at 22:11│Comments(0)歩く、歩く、歩く
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